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Date:  Fri, 4 Oct 2002 23:40:09 +0900
From:  Taikan_Oki <taikan@iis.u-tokyo.ac.jp>
Subject:  [game-jp:0455] 全球土壌水分プロジェクト
To:  game-jp@ihas.nagoya-u.ac.jp
Message-Id:  <200210041440.XAA09607@rainbow.iis.u-tokyo.ac.jp>
X-Mail-Count: 00455


game-jpの皆様:沖です。

Global Soil Wetness Project 2 (GSWP2; 全球土壌水分プロジェクト
第2期)のキックオフミーティングが9月30日と10月1日の2日間にわた
ってMarylandのCOLA(海洋陸面大気センター)で開催されました。現在
引き続き開催中のGEWEX Land Atmosphere System Studies (GLASS)と
いう科学パネルで詳細に関しては変更される可能性もありますが、GSWP2
がいよいよ開始する運びとなりそうです。この国際的な研究プロジェ
クトに対する日本の貢献もだいぶ期待されていますので、可能ならば
科研費を申請したりして、国内の研究体制を整えたいと考えています。
ご興味のある方はどうぞ私までご一報ください。

[目的]
GSWP2では、ISLSCP-IIのデータを用いて、陸面モデルに観測に基づく
もっとも信頼のおけそうな降水量、下向き短波・長波放射量、reference
levelでの風速、気温、湿度、地表面気圧等のデータを与え、陸面エネ
ルギー・水収支を算定し、陸面からの潜熱フラックスや顕熱フラック
ス、土壌水分、そして河川流量等のグローバルな最適推定値を作成する
ことをその大きな目標としています。
  対象年度はISLSCP-IIに併せて1985年〜1995年とし、南極とグリーン
ランドを除いた全陸地1度グリッドごとに日単位の値を提出することを
狙っています。精度の検証は、土壌水分や地表面フラックスの現地観
測、河川流量、衛星リモートセンシングで観測可能な物理量等を利用
して行う計画です。得られた推定値の不確実性についても、
	a) 陸面モデルに依存したバイアス誤差などの不確実性
	b) 外力データの誤差に起因する不確実性
	c) 陸面モデルパラメータの不確実性に起因する結果の不確実性
	d) 陸面モデル適用の時間・空間解像度に起因する不確実性
の4つに関して体系的に吟味検討し、一番もっともらしい地球上陸面に
おける水・エネルギー循環、フラックス分布をエラーバーつきで提示す
ることが目的です。
  また、その過程で、各陸面モデルの相互比較に基づく精度比較検証や
改良、陸面モデルで考慮しているプロセスと結果のバイアスとの関係、
あるいは陸面モデルの複雑さと算定精度との関連、陸面モデルの各種感
度分析、4次元同化を念頭に置いた衛星リモートセンシングと陸面モデ
ルの結びつけ、河道流下モデルと陸面モデルの融合等が実行され、陸面
モデルや広域エネルギー水循環に関する包括的で先端的な研究になると
期待されています。

[参加]
GSWP2への参加はCOLAと東大生研の2つのオペレーションセンター以外に、
まずは陸面モデルグループがあげられます。現在20以上の陸面モデルが
世界中から参加意思表明をしていて、日本からもMATSIRO(本谷研等)と、
おそらくはSiBUC(田中賢治ら)が参加の方向です。他にご自分の陸面モデ
ルをお持ちでグローバルな研究を考えていらっしゃる方、あるいは陸面
モデルを使って広域の研究をしていらっしゃる方はぜひご参加ください。
  次に、検証研究の参加者も募集中です。対象期間の1986-1995年で陸面
エネルギー・水収支が検証できるデータをお持ちで、陸面モデルによっ
てグローバルなアプローチでどのくらい推定できるものなのだろうか、
とか、手元の貴重な土壌水分データや流量データと世界各国各機関の多
様な陸面モデルによる推定値とをぜひ比較してみたい、といった方は大
歓迎です。大気水収支による陸水総貯水量の時間変化推定項と陸面モデ
ル推定値との比較もやったほうが良い、ということになっています。
  衛星リモートセンシングに関しては、陸面モデルで表現されている地
中での土壌水分や地温に関する粗いプロファイル情報から、いかにして
衛星のセンサで観測される輝度温度等を算定するか、そもそも精度と効
率の良いforwardのアルゴリズムをどうやって開発するか、など、課題
が山積み状態なので、ぜひ知恵と経験のある方の参画を望みます。
  また、感度実験に関しても、切れのある実験設定を提案してくださる
方はまだまだ大募集中です。ISLSCP-IIでは外力に関してもNCEPとECMWF
が選べる構造となっていますし、降水量に関してもいくつもの推定値が
与えられています。GSWP2ではその一環として、特に固体降水量の強風
下での捕捉率低下を可能な限り丁寧に補正したデータ(本谷等)を使った
感度実験が予定されています。
  最後に、最適推定値が出たらそれを使って応用研究を行いたい、とい
う方も、ご一報ください。10年分のグローバルな土壌水分分布が得られ
ると陸面におけるダイポールが発見されるかもしれませんし、降水量等
の時間持続性と土壌水分の時間持続性に関する気候条件の違いによる差
異が明らかに整理されるかもしれません。あるいは、マラリアやデング
熱等、土壌水分がモデル化に用いられる疫病の研究にも応用が利くかも
しれません。
  基本的には1986年〜1995年の日単位全球1度グリッドのエネルギー収
支水収支各項が20以上の陸面モデルによって算定され、それらに基づく
最適推定値が提示されるとお考えいただいて結構だと思います。日周期
に関連した検証、研究用に、日最高地温、日最低地温などを10年分、ま
た、最終年の1995年に関しては3時間おきの出力を出すIntensive Modeling
Period(IMP)にしようという案が採択される見込みです。

[日程]
現時点ではISLSCP-IIのデータが2003年1月公開予定となっていますので、
GSWP2向け外力データの整備が2003年2〜3月、最初のコントロール実験の
結果のInter Comparison Center (ICC)への提出が2003年7月頃、といっ
た日程になる見込みです。この調子だと、取りまとめワークショップは
2004年下半期になると思われます。

[技術]
全球陸面1度グリッド3時間おきの外力データ合計約200GBはアメリカ(COLA)
とヨーロッパ(LMD)とアジア(IIS/UT)のDODSサーバに置かれ、各陸面モデル
はローカルに全てコピーしてモデルを走らせることも可能ですが、オンラ
インで外力データを取得しつつ走らせることもできる仕組みを構築します。
データの単位や符号に関してはGDT1.2にALMA仕様を付け加えたものに従い、
物理形式としてはNetCDFを利用しますが、DODSを利用する場合にはこれは
物理形式に関しては実質上関係なくなります。出力形式はすべてALMA/NetCDF
を基本とし、ICCへのuploadあるいはお手元の計算機のftpサーバあるいは
WebサーバにICCがとりに行く、という形態を考えていますが、CD-RやDVD-R、
DVD-RAMなどによる郵送でもモデル出力を投稿できます。
  陸面モデルへのALMA形式でのデータ入出力の導入は大変かもしれません
が、PILPSをはじめ各種陸面相互比較研究や、陸面が関係するGCM実験等は
国際的なものはすべてALMA準拠となりつつありますので、一度導入すると、
後々楽、ということになると思います。また、基本的なエネルギー収支、
水収支チェックのユーティリティ、3時間外力データを1時間や0.5時間単
位に内挿するルーチンなどもALMA準拠で準備されています。ぜひ前向きに
検討してください。

[求人]
東京大学生産技術研究所では、GSWP2のforcing dataをサービスするDODS
サーバを運営し、全モデル出力(500GB〜1TB?)をアーカイブするICCを運営
する役割となっています。これは、喜連川研究室に集約している生研の地
球環境工学研究グループのリソースを使うことになります。このシステム
は、GMS/VISSRやNOAA/AVHRR、Terra/MODISの受信アーカイブ以外に、
ISLSCP-1の黙認ミラーサイト、GSWP1のICCと配布センターとしての役割を
担ってきたのみならず、気象庁GPVの学術アーカイブを開始し、また、ISLSCP-II
ではofficial mirrorサイトとして機能する見込みであるほか、CEOPデータ
センターとも関連し、日本における広域地球環境観測、水循環データの大
収束点となっています。
  さらに、東大生研は水文学的検証の任も負っており、大河川流量や水蒸
気フラックス等全球水循環に関するデータの処理、また、グローバル河川
流下モデルの高度化などの研究開発が必要とされています。
  こうしたデータを用いた研究に熱意と興味をもち、かつグローバルな水
循環や陸面モデルに造詣が深く計算機を操る気力のある方を必要としてお
ります。ポスドクが双方にとってもっとも都合が良いと思われますが、そ
れほど待遇が良くはないにしても修士卒のポジションも可能ですので、わ
れこそは、と思われる方、自薦他薦を問わずご連絡ください。お待ちして
います。

[参考]
GSWP2に関しては
	http://www.iges.org/gswp/
GSWP2/ICCに関しては
	http://www.tkl.iis.u-tokyo.ac.jp:8080/gswp2/
ISLSCP2に関しては
	http://islscp2.sesda.com
をご覧ください。

[その他]
SiBで有名でGSWPの名付け親でもあるピアーズ・セラーズは念願かな
ってシャトルの乗組員になり、この水曜日に宇宙へ行く予定でしたが、
打ち上げが延びて、来週月曜日に延期されたそうです。

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