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Date:  Mon, 7 Oct 2002 17:16:07 +0900
From:  masuda.kooiti@nasda.go.jp (MASUDA Kooiti)
Subject:  [game-jp:0457] Water and Energy Balance Study
Sender:  masudako@wani.yes.jamstec.go.jp
To:  game-jp@ihas.nagoya-u.ac.jp
Cc:  masuda.kooiti@nasda.go.jp
Message-Id:  <200210070815.g978FHl03683@wani.yes.jamstec.go.jp>
X-Mail-Count: 00457

GAME-jpのみなさま:

地球フロンティアの増田です。
第1期のGAMEには直接かかわってまいりませんでしたが、
今年度から、水・エネルギー収支(略してWEBS=Water and Energy Balance Study)
担当として参加することになりました。
これまでGAME WEBSとして小池俊雄さんが中心になって進めてこられた活動をも
引き継いでまいりたいと思います。

GEWEXは全地球規模のエネルギーと水の循環の理解をめざしています。
その中で、GAMEのような地域実験観測の役割はいくつかありますが、
水・エネルギー収支関係で大きく言えば、次の2点があると思います。
1. 全球規模の水・エネルギー収支に使われる全球データセット(そのほとんどは、
   衛星観測から編集されたものか、数値予報モデルを使ったデータ同化に
   よるもの)を、より直接的な観測によって評価する。
   それを、当面使う全球データセットの選択と、将来の全球データセットの
   改良の両面に役立てる。
2. 異なる気候帯での地域実験観測を、水・エネルギー収支項という同じ軸で
   比較することにより、それぞれの研究者が直接行けないところを含めた
   地球上の水・エネルギー循環の多様性・共通性の知識をもつ。

広く言えば、GAMEの活動全体が、WEBSにかかわっています。
しかし、そう言ってしまうとまとめようがありませんので、
GAME第2期のWEBSのうち第1段階としては、
全球データセットでの収支と、地域実験観測のより詳しいデータによる収支を
同じ地域・時間間隔で比較するという作業に重点をおきたいと思っています。

なお、第1段階以外の仕事については、GAME WEBS国際ワーキンググループに
入っていただいた韓国ソウル大学のB.J. Sohn教授とも相談したうえで
順次提案いたします。第1段階という表現をしましたが、それが終わるのを
待たず並行して他の作業もすることになると思います。

水・エネルギー収支のそれぞれを、ひとつは陸面のある地域について、
もうひとつはその上の大気柱について考えます。
陸、大気柱それぞれの内の鉛直構造は第1段階では考えません
(WEBS全体の中では考えたいと思います。)
具体的にどのような項からなる収支を考えているかは、
あとの「===== BEGIN appendix」以下に書きます。

考える空間スケールは、想定している全球データセット
(ISCCP=International Satellite Cloud Climatology Projectの衛星データ、
NCEP再解析データ、など)のつごうで決まってくるのですが、
「空間分解能約250 kmの格子データで表現可能なスケール」です。
約250 kmのスケールから対象にしますが、約1000 km以上が望ましいです。
時間スケールは、第1段階では、月単位(西暦1995-2001年の各年各月)とします。
(これは全球データセットによる収支計算を早くすませるための制約でして、
次の段階では、もっと地域の季節進行に合ったくぎりの解析も含めたいと
思っています。)

そこで、GAMEの観測にたずさわってこられたみなさま、
現在GAMEのデータ解析をしておられるみなさまにお願いいたします。
上記の条件に合う空間・時間スケールでの水・エネルギー収支項(ひとつでも)を
求められたかた、あるいはそれに使えそうなデータをお持ちのかた
(GAMEの名のもとで行なわれた研究に限る必要はありません)
どのような地域(端の緯度経度)、時期(何年何月)について、どのような方法で
求めた値があるか、お知らせいただけませんか。

強化観測でも、約250 km以上の空間代表性のある観測網をもつことは
むずかしいと思いますので、なんらかの数値モデルを利用したもの
(ただし、モデルを自由に走らせるのではなく観測値を与え続けるもの)も
含めます。したがって、GAME再解析の利用も含めます。
また、1点観測ではあるが空間代表性があると期待されるものも含めます。
時間間隔については、すでに月平均値が得られているものに限らず、
それより細かい時間分解能のデータが利用可能なものは含めます。

すでに論文や報告書で出版ずみのものに関しては、
参考文献一覧に使うような形で文献名をお知らせいただきたいと思います。
(英語で文献一覧を作りたいので、英語以外の文献については英訳も添えて
いただけるとありがたいです。)
上記の第1段階の条件に合っていなくても、WEBS全体の趣旨に合いそうな
ものはどうぞお知らせください。
# 第1期のワーキンググループに入っておられたかたで、すでに資料をお渡し
# くださったかたは追加がなければ特にご連絡いただかなくてけっこうですが、
# まだくださっていないかたには、この場のついでで恐縮ながら、
# ふたたび情報提供をお願いいたします。
まだ出版まで行っていないものに関しては、まず概略をお教えいただいて、
あとで、どのような形でデータをお渡しいただけるかご相談したいと思います。
もし多数のかたからご連絡をいただいた場合、一部のかたにだけ
詳細のお願いをすることになるかもしれませんが、どうかお許しください。

また、GAMEの地域データセットと全球データセットの水・エネルギー収支の
比較の作業に参加してくださるかたも募集いたします。当面、雇用のあては
ありませんが、研究打ち合わせの交通費くらいは出せると思います。

===== BEGIN appendix
GEWEX 水・エネルギー収支研究(WEBS)第1段階で考える収支の要素 (増田)

(1) 陸(流域)の水の質量収支

  陸水貯留量の時間変化 = 降水 - 蒸発 - 流出

陸水貯留量は、積雪、土壌水分や凍土の氷、河道や湖などの地表水、地下水を
合計した総量であり直接観測困難である。ただしそれを構成する各部分の貯留量
またはその時間変化量が観測から得られていれば参考にしたい。
流出は、対象地域への流入がある場合は、正味の流出をさしている。
流出は原理的には河川流出と地下流出を含むが、地下流出の観測は乏しいので、
比較の作業上は河川流出だけを標準、地下流出を含めたものを特別扱いとする。

(2) 大気(気柱)の水蒸気収支

  水蒸気量の時間変化 = 水蒸気水平輸送の収束 + 地表面からの蒸発 - 降水

鉛直方向には大気全層を積分して考えているが、
水蒸気収支に関しては対流圏だけをとっても実質的に同じである。
雲水(液体・固体の水)の水平輸送が無視できない場合は雲水の収支式もたてる
べきだが、ここでは水平スケール約100 km以上を考えて簡単化している。

(3) 地表面のエネルギー収支

  地表面での正味下向きエネルギーフラックス
  = 正味下向き放射 
  - 正味上向き顕熱フラックス
  - 正味上向き蒸発の潜熱フラックス

ここでは面つまり無限に薄い層を考えるので、エネルギーの時間変化項は0である。
積雪や植生は地表面より下にあると考える。
たとえば、融雪が起こっていて、その下の土壌との熱伝導が無視できる場合、
地表面での正味下向きエネルギーフラックスは融雪に相当する正の値をとる。

(4) 大気(気柱)のエネルギー収支

  エネルギーの時間変化
  = エネルギー水平輸送の収束
 + 大気上端での正味下向き放射
  - 地表面での正味下向きエネルギーフラックス

ここで考えるエネルギーは水蒸気に伴う潜熱を含めた湿潤エネルギーである。
運動エネルギーの寄与を含めたもの、それを無視して静的エネルギー
(内部エネルギーと位置エネルギー)で考えたもののいずれも対象とするが、
運動エネルギーとその変化に関与する項だけを求めたものは対象としない。
鉛直方向には大気全層を積分して考えている。成層圏の寄与も無視できない。
しかし、対流圏全層についての地域的収支計算の成果があれば、
大気上端の代わりに対流圏界面での鉛直エネルギーフラックスを考える
ことによって、比較に含めたい。
熱帯気象で使われるQ1, Q2との関係でいうと、
<Q1-Q2> (Q1とQ2の差の鉛直積分値)が、ここでの表現での
「エネルギーの時間変化 - エネルギー水平輸送の収束」に対応している。

(5) 大気(気柱)の乾燥エネルギー収支

  乾燥エネルギーの時間変化
  = 乾燥エネルギー水平輸送の収束
  + 水蒸気の凝結(正味)によって解放された潜熱(降水量に対応)
  + 大気上端での正味下向き放射
  - 地表面での正味下向き放射
  + 地表面での正味上向き顕熱フラックス

これは(4)から(2)に対応する部分を除き、(3)による置きかえを行なったもの
であり、それらと独立のものではない。
乾燥エネルギーとは大気のエネルギーから水蒸気に伴う潜熱を除いたものである。
運動エネルギーの寄与を含めたもの、それを無視して静的エネルギー
(内部エネルギーと位置エネルギー)で考えたもののいずれも対象とする。
層のとりかたについては(4)と同様。
熱帯気象で使われる<Q1> (Q1の鉛直積分値)は、ここでの表現での
「乾燥エネルギーの時間変化 - 乾燥エネルギー水平輸送の収束」に対応している。
===== END appendix
--
増田 耕一 (MASUDA Kooiti)
地球フロンティア研究システム 水循環領域
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