Index: [Article Count Order] [Thread]

Date:  Fri, 18 Oct 2002 18:57:03 +0900
From:  "N. Mannoji" <nmannoji@npd.kishou.go.jp>
Subject:  [game-jp:0462] Oct.28 Gross Wetter
To:  "GAME ML" <game-jp@ihas.nagoya-u.ac.jp>
Message-Id:  <004a01c27689$7e9e5ce0$c34711ac@hq.kishou.go.jp>
References:  <200210180318.MAA24232@sesux1.ses.usp.ac.jp>
X-Mail-Count: 00462

GAME ML の皆様、万納寺@気象庁、気候情報課です。

同様のメールを複数受け取られる方には、御容赦願います。

10月28日(月)に気象庁において、
「力学的長期予報の展望」をメインテーマとして、
気象学会月例会「長期予報と大気大循環」を開催します。

気象庁では2003年3月から3か月予報に力学的手法を導入することにしており、
主にそれに関連した講演が行われます。

ご興味のある方はぜひご参加ください。

「詳しくは、  http://www. .....をご覧ください」、と言えるような場所が
ありませんので、
長くなりますが、講演要旨もメイル本文に付けておきます。

また、このメイルは興味のありそうな方にはご自由に転送してください。

----------------------------------------------------------------------------
2002年度 月例会「長期予報と大気大循環」講演プログラム
メインテーマ:力学的長期予報の展望

日時:2002年10月28日(月)13時30分〜17時20分
場所:気象庁大会議室(旧第1会議室:5F)

13時30分 開会
13時35分 前田 修平・松下 泰広・伊藤 明(気象庁気候情報課)
      「気象庁における力学的季節予報実験」
14時05分 石井 正好(気象庁気候情報課)
      「気候の監視と予測のための海洋データ同化」
14時35分 高野 清治(*1)・小林 ちあき(*1)・前田 修平(*2)・楠 昌司(*2)
      (*1)気象庁気象研究所 (*2)気象庁気候情報課
      「ESNOの日本への影響とその予測可能性(冬)」
15時05分 山根 省三(*1)・本田 明治(*1)・中村 尚(*1,*2)・大淵 済(*3)
      (*1)地球フロンティア研究システム (*2)東京大学理学部
      (*3)地球シミュレータセンター
      「外部強制に伴う季節予測可能性について」

15時35分 休憩

15時50分 田中 博(筑波大学地球科学系)
      「長周期変動の力学と予測可能性の探求」
16時20分 木本 昌秀(東京大学気候システム研究センター)
      「中緯度および熱帯における再帰的な変動モードとその予測可能性」
16時50分 向川 均(*1)・廣岡 俊彦(*2)
      (*1)京都大学防災研究所 (*2)九州大学理学部
      「成層圏突然昇温の予測可能性―1998/99年の事例解析―」
17時20分 閉会

18時00分 懇親会(7F気候・海洋気象部会議室)

問い合わせ先:気象庁気候情報課LFグループ事務局
事務局担当 竹内 綾子
TEL/FAX:03-3211-8406(自動切換え)
E-mail:lfd_clim@hq.kishou.go.jp

--------------------------------------------------------------------
2002年度月例会「長期予報と大気大循環」講演要旨集
テーマ:力学的長期予報の展望
日時:2002年10月28日 13:30〜17:20  場所:気象庁大会議室(5F)

  ------------
講演者:前田修平・松下泰広・伊藤明(気象庁気候情報課)
講演題目:気象庁における力学的季節予報実験
要旨:
 気象庁は平成15年3月に3か月予報に力学的手法を導入する
予定であり、現在、それに向けた準備の一環として力学的季節
予報実験を行っている。実験では、現業運用する予定の気象庁
の大気大循環モデル(T63L40V0103)を用い、1979年1月〜2001
年12月までの18年分について毎月月末を初期値とする120日予
報を行う。モデルに与える海面水温は予報初期の平年偏差を固
定し、積雪深や土壌水分などの陸面状態の初期値はECMWFの
再解析データ(ERA15)で気象庁の陸面モデル(Sib)を強制して
作成した値を用いる(ERA15のない1994年以降は1984〜1993年
の平均値を用いる)。アンサンブル手法はSV法で5メンバーのア
ンサンブル予報を行う。
 講演では、この実験について北半球循環場のRMSEなど標準的
な指標による検証結果を述べた後、エルニーニョ/ラニ―ニャ現象
などの海面水温偏差に対する熱帯・中緯度大気の応答、いわゆる
「北極振動」などの北半球の中高緯度大気に卓越する循環パターン
の予測、1993年冷夏・1994年暑夏の予測等について述べ、現時
点における力学的季節予報の実力を紹介したい。

  ------------
講演者:石井正好(気象庁気候情報課)
講演題目:気候の監視と予測のための海洋データ同化
要旨:
 3 次元変分法により、表層水温、表層塩分、衛星による海面高度
観測データを海洋モデルに同化するシステムを紹介し、エルニーニョ
予測精度への、海洋データ同化の効果について議論する。紹介する
システムでは、海洋の密度場の再現性を高めることを主な目的とし
ている。運動量、熱、淡水フラックスの大気の外力とともにデータ同
化が行なわれる。システムの出力を大気海洋結合モデル「空海」の
海洋側の初期値とするエルニーニョ予測実験を、同化結果の検証を
目的に行なう。予測では、データ同化から見積られる運動量と熱フ
ラックスの修正量と、海洋モデルの表層数10 m の水温値の補正量
を与える。データ同化の改善により、予測精度が高まることを確認し
た。塩分の実際の観測データは少ないが、同化モデルにおける塩分
の取り扱いを変えることによって、予測精度に実質的な違いが現れる
という結果を得た。この理由についても議論する。

  ------------
講演者:高野 清治(*1)・小林 ちあき(*1)・前田 修平(*2)・楠 昌司(*2)
     (*1)気象庁気象研究所 (*2)気象庁気候情報課
講演題目:ESNOの日本への影響とその予測可能性(冬)
要旨:
 エルニーニョ時には日本は暖冬になりやすいと言われているが、その
メカニズムについて検討した。晩冬期(1〜3月)は安富と木本(1999)の
指摘のように熱帯西太平洋の降水量の減少に伴う下層の高気圧循環
による暖気移流が重要だが、初冬期(10〜12月)は中国南部から伝搬
するロスビー波に伴うバロトロピックな高気圧性循環が日本付近に形
成されることが重要であることがわかった。
 次にこのような季節的差異をもたらす要因を調べるために200hPaの
渦度バランスを調べた。その結果、波数0の低気圧性循環をもたらす
強制が晩冬期のほうが強く(Watanabe et al. 2002)、この波数0の強制
が気候値の波成分と相互作用をすることにより、日本付近にローカルな
影響を与えることが重要らしいことがわかった。
 最後に楠ら(2001)の季節予測可能性実験の結果をもとに、これらの
再現性を調べた。その結果、晩冬期の再現性はよいが、初冬期は必ず
しもよくない。

  ------------
講演者:山根 省三(*1)・本田 明治(*1)・中村 尚(*1,*2)・大淵 済(*3)
     (*1)地球フロンティア研究システム  (*2)東京大学理学部
     (*3)地球シミュレータセンター
講演題目:外部強制に伴う季節予測可能性について
要旨:
 大気の季節平均場に見られる経年変動の成因には、一般に、大気
自身の内部力学に起因するものと海面温度などの外部強制の経年
変動に起因するものとの二つが考えられる。大気大循環モデル(水平
T42鉛直20層)を用いて大気下部境界条件に期間1949-2000年の
海面温度と海氷の観測値を与えた数値実験(ハインドキャスト実験)を
初期値を変えて複数(13メンバー)行い、この数値実験の季節平均場
に見られる経年変動においてこれら二つに起因する変動の分散(内部
分散と外部分散)を定量的に見積もることを行った。全分散に対する外
部分散の割合は、外部強制に起因する大気の予測可能性を表す量で
ある。例えば、冬季アリューシャン低気圧の経年変動における外部分
散の割合は0.34であったが、これは、完全モデルの仮定の下で、大気
下部境界条件が既知であれば冬季アリューシャン低気圧の経年変動
を相関係数0.6程度で予測することができることを意味する。いくつか基
本的な物理量についてこれらの量を計算した結果について示す。

  ------------
講演者:田中 博(筑波大学地球科学系)
講演題目:長周期変動の力学と予測可能性の探求
要旨:
 大気大循環におけるブロッキングやテレコネクション、北極振動(AO)
等の長周期変動は順圧的な構造を持つことが知られている。これは、
南北の温度差に起因する有効位置エネルギーが傾圧不安定によって
総観規模擾乱の順圧運動エネルギーに変換され、それが順圧大気の
力学的束縛の中でエネルギーの逆カスケードによりプラネタリー波と
帯状流のエネルギーへと変換されることによる。傾圧成分の鉛直ノーマ
ルモードは連続スペクトルになる一方で、順圧成分のみが孤立スペクト
ルを形成し、傾圧から順圧に流れるエネルギー供給により、大気中の
順圧成分は独自の力学的挙動を繰り広げ、長周期変動の原因となって
いる。力学的長期予報の壁となる大気のカオス性は傾圧大気の強い
不安定や重力波に起因するため、それらを含まない順圧モデルでは
カオス性がほとんど現れないという特徴が見られる。しかし、予報とし
ての問題は傾圧順圧相互作用の定式化に集約され、傾圧場からの
強制が順圧場と無関係ならば予報は困難となり、逆に順圧場にコント
ロールされているのなら予報は可能となる。これは初期値依存のカオ
スの壁ではなく、外部強制項の定式化の問題である。従って、順圧大
気の力学的理解を深めることにより、新しい手法での力学的長期予報
の可能性はまだ残されていると考える。

  ------------
講演者:木本 昌秀(東京大学気候システム研究センター)
講演題目:中緯度および熱帯における再帰的な変動モードとその予測可能性
要旨:
 長期予報の成否は、大気長周期変動(LFV)の予測の可否如何に
かかっている。カオスによる障壁を越えてどのような成分がどの程度
予測可能であるかを見極めることが予測の立場から重要であり、それ
らがなぜ、また如何様なメカニズムを経て予測可能性を持つのかを
明らかにすることは、科学的に重要である。もとより長周期変動のふ
るまいは複雑怪奇であるが、長年の経験からいくつかの顕著な変動
パターンの卓越が知られている。これら卓越変動モードは、力学的、
物理学的なフィードバック機構を内在し、それゆえに他の可能性を凌
駕して我々の眼に触れ、また、顕著な持続性を示す、と考えている。
その具体的な機構の解明、そしてモードを効果的に励起し、また、発
現、遷移させるメカニズムを同定することが重要であると考える。講演
では以下のモードについて具体的な論評を加える:寒候季の北極(北
大西洋)振動(AO/NAO)、全年に卓越する熱帯環状モード(TAM)、
夏季の西太平洋亜熱帯高気圧変動(acronym未定)。

  ------------
講演者:向川 均(*1)・廣岡 俊彦(*2)
     (*1)京都大学防災研究所  (*2)九州大学理学部
講演題目:成層圏突然昇温の予測可能性―1998/99年の事例解析―
要旨:
 冬の成層圏循環において最も顕著な現象である突然昇温現象は,
対流圏より鉛直伝播する大振幅のプラネタリー波と成層圏における
帯状平均風との相互作用という枠組みで力学的に理解しうることは,
Matsuno(1971)によりすでに示されている.しかしながら,突然昇温
現象の発生の前にしばしば観測される,対流圏におけるプラネタリー
波の増幅メカニズムをうまく説明する理論は提唱されていない.また,
実際に発生した昇温現象を,どのくらい前から数値予報モデルで予
測しうるのかという予測可能性に言及した研究も少ない.
 本研究では,1998年12月中旬に発生した波数1型の成層圏突然
昇温現象の予測可能性とその発生メカニズムを調べるため,気象庁
1ヶ月予報モデルの予測結果を用いて事例解析を行った.その結果,
成層圏極域の昇温現象自体に関しては一ヶ月程度以前から予測し
うる可能性が示唆された.また,昇温現象の前に生じる対流圏内で
の波数1のプラネタリー波の増幅には,対流圏内における,帯状平均
風・プラネタリー波・総観規模波動間の相互作用が重要であることが
示唆された.一方,突然昇温後の1998年12月末に,対流圏で顕著な
ブロッキング現象が発生したが,その発生時期は,北極振動に付随す
る変動が成層圏から対流圏に急速に下方伝播する時期と一致してい
た.全ての一ヶ月予報結果では,この時期のブロッキング現象の持続
性や,この下方伝播を正しく予測していない.このことは,ブロッキング
現象の発生と持続性に,プラネタリー波の鉛直伝播特性を通して成層
圏循環が深く関わっていることを強く示唆しており,大変興味深い.

--------------------------------------------------------------------
  万納寺信崇                            <nmannoji@npd.kishou.go.jp>
  100-8122 東京都千代田区大手町 1-3-4   Phone 03-3212-8341 ext. 4224
  気象庁気候情報課                      Fax 03-3211-8406
--------------------------------------------------------------------